大学院特別講義十五週目


 大学院特別講義十五週目(7/20)、今回は外部講師として中野デザイン事務所の代表をしていらっしゃる中野 豪雄さんに講義をしていただいた。

 

 グラフィックデザイナーをしていらっしゃる中野さんの講義テーマはインフォグラフィックスとデザインの思考。講義内容は大きく分けて二つに分かれており、1,問題に答える=問題解決ではジョージ・ネルソン展のグラフィックデザイン、2,問題に気付かせる=問題提起では地震に関連した情報をインフォグラフィックス化したグラフィックトライアル2015を軸に講義をしていただいた。展覧会のグラフィックデザインでは様々な制約の中で複数のグラフィックデザインをするという問いに対してジョージ・ネルソンを的確に捉えたグラフィックで回答、解決をした。ここでは複数の要素が繋がる瞬間を見つける=問題に答えることだとおっしゃっていた。問題提起のグラフィックデザインでは地震をテーマに情報が溢れかえり情報に対して受動的になっている人々に対して、インフォグラフィックスを通して今まで気づかなかった視点に気付かせる、自ら考えるように誘導して問題を表面化させるという手法だった。

 

 中野さんの講義は実例を交えながら詳細に説明していただけたのでとても勉強になった。特に問題提起に関しては、自分の考えを正す必要があるなと感じた。自分は問題提起はもちろん必要なことだが、解決すべき問題を見つけ、解決するためのプロセスのひとつだと考えていたので、問題提起自体を目的とする手法には驚いた。よくよく考えてみれば、デザインをするということは問題を解決するということ以外に表現するという側面もある。自分が内にに秘めている問題、社会が秘めている問題、それらを見つけ、人々にわかりやすく、それでいて考えさせるようなデザインをするのは口で言うのは簡単だがとても困難なことだろう。問題を提起するためには問題を知らなければならない。その問題を拾うためのアンテナを常に張っていなければなと強く思わされた講義だった。

大学院特別講義十四週目

 大学院特別講義十四週目(7/20)、今回は外部講師として黒川雅之建築設計事務所の代表をしていらっしゃる黒川 雅之さんに講義をしていただいた。

 

 黒川さんは講義を始める前に、「デザイン科学科とは?」という問いを投げかけた。「理論的にデザインを進めることを学ぶこと」という回答が出たが、黒川さんはデザインをする際は感覚を大事にしている、とおっしゃっていた。この講義の大きなテーマとして黒川さんは「揺れる」ということを設定した。すべてのものは揺らぎの中にあって、揺れているというのは最も正しいものの在り方なのだという。また、美しいものの定義付けというのは、命をかけてもいいと思えるものだともおっしゃっていた。いいものは人によって基準がまちまちだが、美しいものには命をかけてもいいと思える、それくらいの感動を生み出すこと、作ることが仕事なのだという。不安定に揺れる世界の中で調和を得ようと絶えず揺れ続けている、不安定なもの。そういったものに美しさを感じるとおっしゃった。

 

 調和の中から人はものを生み出すのではなく、混沌の中から生み出すのだという。一度今まで作ってきたもの、積み上げてきたものをすべて壊す、なかったことにする。それらを混ぜた混沌の中から引っ張り出してきたものが面白いものである。これはまさにイノヴェーションであると感じた。人々が考えもしないもの、それを作るのに一度もともとある概念を打ち壊すのが重要だと感じた。また整った形はきれいではあるが、面白くないなと感じた。不安定な形をしているため、見る方を不安にさせるが、それぞれの要素が緊張感をピンと張り詰めてバランスを取っているような作品に、自分は美しさを感じているのだなと感じた。黒川さんの講義は感覚的なものに聞こえるが、デザインの本質を捉えたお話であったように感じる。問題を理論的に解決することも重要ではあるが、研ぎ澄まされた感覚には追いつけない。その感覚を身につけるために、問題発見に対する姿勢を変えていかなければいけないなと感じた。

大学院特別講義十三週目

 大学院特別講義十三週目(7/13)、今回は外部講師としてenmonoの代表をしていらっしゃる三木 康司さんに講義をしていただいた。

 

 三木さんの講義はスタートから他の特別講師の方と違っていた。それは1分間の瞑想を受講者全員ですることである。瞑想をするのは久しぶりだったが、これを通して、enmonoが大事にしている禅の精神について感じさせられた。enmonoが行っている事業は「マイクロものづくり」。中小企業がオリジナル製品を作るというものである。下請けという立場から独立し、ワクワクする気持ちを持って仕事ができるようになるような提案をしているのだという。メインの手法としてtreasure hunting chartがある。これは社長や会社が持っている強みを探ることと、本当にやりたいこと、好きなことを探っていく手法である。それを使って出てきたアイディアを制作し、クラウドファンディングを用いて話題を作り、新たな販路を生み出すことで、成功へと導くのだという。

 

 自分はこの講義の中でワクワクするという気持ちが生み出す、エネルギーの強さに驚かされてしまった。自分たちがしましている仕事の枠にとらわれず、本当に作ってみたいもの、欲しいもの、そして楽しいものを作るエネルギーはものすごいものがあるし、ワクワクするからこそ頑張れる。いいものが作れるのだと感じた。ものを作る上でワクワクすること、楽しむことを忘れたらいいものはできないのだと実感した。このことは頭ではわかっているがなかなか実例で見ることはできず、話に聞いてもイマイチ掴むことができなかった。今回のenmonoさんの講義でクラウドファンディングを利用して成功する会社をたくさん見て、完成品も素晴らしいと思うが、何より楽しんで作っているということをとても強く感じた。こうしたエネルギーは素晴らしい。自分もワクワクを生かし、世界をワクワクさせるようなものを作っていこうと思った。

大学院特別講義十二週目

 大学院特別講義十二週目(7/6)、今回は外部講師として武蔵野美術大学で教授をしていらっしゃる西本 企良さんに講義をしていただいた。

 

 講義のテーマはアニメーションとデザインの思考で、アニメーションの研究をされている西本さんに最初にアニメーションの原理について話していただいた。様々な種類のアニメーションの原理についてお話ししていただいたが、そのお話の中で、(映像ではない)アニメーションとは錯覚を利用したものなのだなと感じた。西本さんはアニメーションの研究の中で、人間が周りをどう見ているかについて考え、研究しているとおっしゃっていた。初めに説明していただいた映画の原理では静止画を並べて流すことで動いているように見える、という原理である。これはただ流すのではなく、コマが変わる瞬間を隠し、シーンごとに見えるようにしている。こうして人の視覚特性を利用して、作品が生み出されているのだという。他にも様々な視覚特性を生かした作品を紹介していただいた。

 

 この講義の中で自分が学んだことは、対象ユーザーに対してどう見せたいか、それをするためにはどうすればいいかを考えることの大切さである。デザインに限らず、人が視覚から得る情報は全体の中でもとても多い割合を占めている。そこからどんな情報を得て、どんな印象を受けるのか。これを考えながらデザインをしていくことがとても重要であるように感じた。映像作品においては人の視覚特性を利用したものが多いが、他のデザイン分野においても、それらは重要になってくる。また、リフレーミングを行うことの大切さも勉強になった。映像作品としてのアニメーションではなく、伝える手段のひとつとしてのアニメーション制作をしているとおっしゃっていた。「見せる」ではなく「伝える」。自分の知らないアニメーションの世界を覗けたようで、とても興味深く、面白い特別講義だった。これを機に、リフレーミングや、物の見方について深く考えてみようと思う。

大学院特別講義十一週目


 大学院特別講義十一週目(6/29)、今回は外部講師としてプレーンで代表をしていらっしゃる渡辺 弘明さんに講義をしていただいた。

 

 講義の初めに渡辺さんのデザインに対する美学、思考について聞いた。デザインをする事とは製品を開発する事そのものであり、機能などと合わせてこれ以上単純化できない、というところまで削ぎ落とす事がデザイン活動であるとおっしゃっていた。アールがついている製品は意外と使いにくいことが多く、さらに言うと「美を目的としたデザイン活動を行わなず、結果として美を感じる」ということを考えているという、そういう観点から言うと日本のものはとても美しいらしい。機能を考える上で、何かに特化した機能を持つものは美しいと、渡辺さんのデザインしたステーキナイフを見て感じた。マナー的な観点からステーキナイフは右手でしか使わないことを見出し、そこに美しさを与えた。問題発見ではないが、そう言ったような、当たり前になりすぎて気にしないポイントをいかにアイディアとして昇華させるかどうかが難しいところであると感じた。

 

 自分はプロダクト専攻なので、プロダクトデザイナーの渡辺さんのお話はどれも興味深かったが、その中でも自分がこの特別講義の中で一番心に残った、というより自分も実践していかねばならないと思ったのは、当たり前を疑うということである。人のためのデザインをするために問題発見は必要不可欠だが、一番近くにある問題が普段の生活に馴染みすぎて見つけることができないことがある。それらの問題を発見するために「当たり前を疑う」ということを実践していこうと思う。そのために日々の生活の中でアンテナを広げ、深く観察をすることが重要だとこの講義の中で感じた。まだまだ気づいていないだけで問題は生活の中にたくさん潜んでいるように感じるし、問題を作り出すきっかけになりうるものもたくさん潜んでいるだろう。それらを発見するために、この講義の中で得たものを活かしていこうと思う。

大学院特別講義九週目


 大学院特別講義九週目(6/15)、今回は外部講師としてインサイトフォースで代表をしていらっしゃる山口 義宏さんに講義をしていただいた。

 

 普段コンサル事業をしていらっしゃる山口さんのお話はブランディングに関するお話がメインであった。まずブランドというものの定義付けとして、ブランドの中にある二つの要素がある。まず生活者の頭の中の識別記号としての:Brand Identity(ロゴ、形、色など)。それと知覚価値としてのブランド:Brand Value(カテゴリ、人格、ベネフィット、エビデンスなど)。ブランドの一般的な意味で知られる「高級」は知覚価値のひとつでブランドを意味するものではなく、ブランドは一貫性のある体験の蓄積で創られるのだという。

 ブランド価値を決める要素として、商品、サービス、広告、販売店、スタッフ、ウェブサイトなどの企業が直接コントロールできるものと消費者発信メディア、知人の評判などの企業が直接コントロールできないものがある。記号も価値も一貫性がなければブランドとして記憶されず、パッと見てわかるようなものになって初めてブランディングが成功したと言える。

 

 デザイナーの仕事が物の形を美しく作るだけでなく、企業ブランディングなどもあるというのが世に広まってきている昨今において、実際に数々の企業コンサルを行っている山口さんの生のお話はとても興味深かった。お話の中でブランディングをするのに重要なのは見極め力、洞察力であると考える。企業ブランドに一貫性を持たせる際その企業の特徴や得意とすることを見極める力はもちろんの事、企業の特徴をユーザーに押し付けるのではなく、市場ニーズの流れを見極める力が絶対的に必要な能力なのではないだろうか。他にも分析力なども必要になってくる。良いブランディングを行うためには様々な能力を身につけなければならないが、これらの能力は他の領域でのデザイン活動においても役に立つだろう。これからデザイナーとして生きて行くのに今から意識していこうと思う。

大学院特別講義八週目

 大学院特別講義八週目(6/8)、今回は外部講師として寺田尚樹さんに講義をしていただいた。

 

 寺田さんの代表作として有名なテラダモケイや15.0%といった代表作のお話の前に自身が学生時代に行っていたこと、制作した作品などについての紹介を受けた。学生時代に考えていたこと、どういうマインドを持って制作を行っていたかのリアルなお話が聞けてとても勉強になった。今の自分との違いは何かと考えるきっかけにもなった。また、自分で仕事の種を撒いていくというのも、なるほどな、という感じだった。頭ではわかっているつもりだが実際単発で終わってしまっていうので社会に与える影響などもっと考えていかなければなと感じた。寺田さんは建築出身ながらもプロダクトやグラフィック(ピクトグラムやサイン)の仕事もなさっており、様々な話が聞けて面白かったが、中でも勉強になって深く考えさせられたのは行ってきた仕事は全てつながっているというお話だった。

 

 自分自身いま将来何がしたいのかわからなくなっている。それはやりたいことが何なのかわからないということではなく、やりたいことが多すぎて、何をメインの仕事にすればいいのか迷ってしまっている。寺田さんのお話を聞いていろいろやるという選択肢もあるんだな、という考えを持てたのは大きな収穫だったと思う。しかしそれをするには寺田さんの話にあったように一つのコンセプトや芯のようなものをすべてのデザインに通して考えていくということが重要だなと感じた。様々な分野の仕事を行っていても自分の中にマインドがなければ作品がちぐはぐになってしまうだろう。将来何がやりたいのかで今までずっと悩んできたが、これからはもっと芯の部分について考えていかなければいけないと感じた。講義内容には関係ないが寺田さんの人柄の良さも印象的だった。人を対象にしていくデザインの仕事をするにはああいった才能も重要だなと思わされた。